宇城の民話
宇城の民話 「甚平さんと河童」
2013年05月04日
むかしのこと、
大野に甚平さんという
網打ちの好きな人がいました。
いつも大野川の大曲りの
深みになっているところに
網打ちに行っていました。
今日は八朔だからと、
嫁さんが止めるのも聞かずに、
いつものように網打ちに出掛けました。
甚平さん、今日こそはと張り切って
網打ちにかかりました。なにかしら大きいのが
掛かったような手応えがあるので、
しめたと頑張ってやっと引き上げてみますと、
なんと、河童が掛かっているではありませんか。
甚平さんは左利きでしたので、
左の方に向かって網を打っていました。
河童達は仲間同士で逃げる時は
いつも左と決めていましたので、
逃げた方に網がきたのでした。
「甚平さん、甚平さん、どうぞ助けてはいよ」
と河童が拝みます。甚平さんは、
「お前達や人ば水ん中に引っ込うだり、
悪かこつばっかすっじゃなかか、
もう悪かこつばせんて約束すっなら
放してやったっちゃよかたい」と言いますと、
「はい、甚平さん、こるから先や、
大野ん者な決して引っ込みまっせん。
人間な、うそば言うバッテン、
河童は孫子の代まで絶対うそは言いまっせん」と、
しっかり手を合わせて拝みます。
甚平さんは可哀相になり網から
河童を放してやりました。
ところが、これはこれはどうしたことか、
一天にわかにかき曇り雷まで鳴り出す始末。
こりゃ大変、庭に干物がと大あわてで家へ戻ると、
なんと嫁さんは気持ちよさそうに昼寝をしています。
空を見上げると雨が降るようすでもありません。
「わあ、すっと、あん河童は只者じゃなか、
きっと川の精(主)だったつばい」
と甚平さんは思いました。
その次の日から、毎日、河童が、
フナを三匹から五匹必ず持ってきては
裏庭に置くようになりました。
河童はそんなこととは知らず、
いつものように魚を持ってくるそうです。
雪の降る寒い日も同じように持ってくる河童を
可哀相にと思い、嫁さんは
「なあ、甚平さんな死なしたばい、
もうおらっさん」と話して聞かせると、
今度は、仏さんに魚を
あげるようになったそうです。
次の日も、また、次の日も。
嫁さんは、甚平さんが亡くなる前
「まな板ん上にゃ包丁ば載せとくな、
河童がケガして来んごつなるけん」
と言ったことを思い出して、
可哀相な河童に、もう許してやろうと思い、
わざと、まな板の上に包丁を置いてやりました。
案の定、河童は包丁で足をケガして
足を引きずりながら戻っていきました。
それからは河童も来なくなったそうです。