宇城の民話
宇城の民話 「やへいどんときつねづか」
2013年05月04日
下郷村の弥平どんは、百姓の馬を売買する馬喰(家畜商)でした。
今夜も商いの話が長引いて、豊福と下郷の間にある野っ原の淋しい夜道を急いでいると、
曳いていた馬が急に前足を突っ張って、
どうしても前へ動こうとしません。
おやっ、と思ってよく見ると馬は
両耳を立て鼻で荒い息をしています。
このあたりは、狐や狸が出てよく人をだますという噂もあるところ
「こりゃなんさま、
何かにむごう驚いちょるばい」
さては、と周りをよく見ると道端に地蔵さまが立っていなさるのが見えました。
肝っ玉の大きい弥平どん
「アレ、この地蔵さまな、まちっと
向こうにあった筈ばってん、おかしかばい」
とひとり言をいっていると、地蔵さまが
先の方へサッと場所を変えました。
弥平どんは腰に下げていた包みを
いやがる馬の尻尾に結びつけ、
その地蔵さまの前を通り抜けようとすると、
何やら黒いものが馬の尻尾に飛びかかってきました。
驚いた馬は、後足でガツッと蹴上げると、
ギャッと妙な叫び声と一緒に
何やら黒いかたまりが地べたに転がり落ちました。
「うまくいったぞ」
と、弥平どんが近づいてよく見ると、
やはり、それは大きな古ぎつねでした。
まだピクピクしているきつねを馬の背に
くくりつけて家へ戻りました。
翌朝、村の人々が集まって、
どこのきつねかとワイワイガヤガヤ
「たぶん、わるさ話の多か、
お勘女じゃろうよ」とか
「きつねも死ねば可哀想なものよ」
と、小さな塚を建て葬ったということです。
今でも「きつね塚」という地名があります。